彼と初めて会ったのは、小さな森の中だった。
 ボクは弟と喧嘩しちゃって。初めて喧嘩したから、また元に戻れるかが不安で。半身が突然消えたような感覚に陥って。
 そしたら、男の人が怖い顔してやってきたんだ。


 ――いいことじゃん。そういう相手がいるってだけで、人生愉しく駆けられる。


 惨劇に見舞われた町で、生きる為に人を犠牲にしてきたと彼は云った。人を踏み台にして、誰も信じず生きて来たと彼は云った。今にして思えば、子供には解らないだろうと思ったのかもしれない。
 これからもそうして生きると話す彼は、悪だと強がる唯の人に見えた。


 ――淋しいんだ……ッ!


 遠吠えのように本音を吐かれて、彼の淋しさを散らしたいと思った。
 彼の傍に、ボクが居たいと思った。


(ある少女の記憶)






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