喫茶スペースから伸びる連絡通路を通り抜ければ、其処はアクセサリーを中心に扱う雑貨スペースだ。シンプルを基本とした喫茶スペースと差を持たすためか、こちらは若者向けに派手目の内装をしている。
 とはいえ、そうは云ってもあくまでメインはアクセサリー。必要以上に目立つ内装にはせず、アイボリーの壁に細かな模様が施されていたり、一部カーテンの色を濃い目にしていたりとそのくらいだ。壁や棚に煌びやかなアクセサリーがいくつも陳列されているから、喫茶スペースに比べ、華やかになるのも当たり前。シルバーやルビー等、金属や宝石に比べるとあまりメジャーでない粘土細工も取り扱っており、“アクセサリーハウス”の名に恥じない品揃えだ。
 喫茶スペースと同じく、こちらも大分客足が落ち着いているのを良いことに、デュラシアはきょろきょろと目標物の姿を探した。先程と同じく何処かに隠れているかもしれない。カーテンの内側や棚の中、そんなところに隠れられる筈もないだろうというくらいに狭い隙間まで細かに探している。
 その様子を、店番中の香る椿に口付けを・フェレク(a15683)と獅天咆哮・デューク(a10704)は眺めていた。
 どちらからともなく視線を交わす。デュラシアさんは何してるの? さあ私にはさっぱり。アイコンタクトの会話としてはそんなところだ。
 様子からして何か落し物でもしたのかと、フェレクはデュラシアの背後に近付いた。その肩をつつく。
「デュラシアさんー、何か探し物ー?」
「フェレクやん!」
 今にも泣きそうな声でフェレクに縋りつくデュラシア。
「そーなんだよーもう何処行っちゃったんだろうー!」
「あらら」
 あやすように背を叩きながら、フェレクは自分の予想が当たったことを確信する。
 デュラシアさんがこれだけ困り顔で探してるんだ、きっと大切なものなんだろう。
 店としてはあまり良くないことだけれど、今は客が一人もいない状況だ。少なくとも客が来るまでは探し物に集中してもいいのではないかと、そう考えたフェレクがデュークに考えを伝えれば、彼も髭を撫でながら頷いた。
「そうであるな。他の雑務も既に済ませているし、私たちも手伝おう」
「いいよね? デュラシアさん」
「大歓迎よ有難うー! 寧ろお願いするわ!」
 首がもげるのではないかと懸念する勢いで頷くデュラシアに、二人の顔も綻んだ。


 ――まさかデュラシアが探しているのが生身の人間だと、この会話では誰も思うまい。
 すれ違いであることに気付かぬ儘、三人はそれぞれ探索を開始する。


 デュークが顎に指をやる。
「デュラシア。ところで貴殿は何を探してるのかね?」
 彼が探す大切なもの……すぐに思い浮かぶのは紅茶に関するものだが、この雑貨スペースにそれが落ちるとは考えにくい。
「可愛くて、可憐で、花みたいな子なんだけど……」
「……ふぅむ」
 花みたい、とデュラシアは云う。その言葉に、二人はアクセサリーの類だろうと見当を付けた。デュラシアがアクセサリーや紅茶を自分の子供のように可愛がっていることなら、この店の誰もが知っている。指輪とかペンダントとか、固有名詞を出さなかったのだから余程珍しい品なのだろう。
 万一にと思い、デュークは店売りの品々を調べに掛かった。店売りの物と一緒に陳列されているなら一大事だ。幸い、今日購入していかれた品々の中に花をモチーフとした物は入っていないから、売ってしまったということはないだろうけれど。
「それは何色であるか?」
「赤と銀かな。てかデューク毎日見てるじゃないのっ」
 デュークの頭上にハテナマークが飛ぶ。
 毎日、見てる?
「サイズってどれくらい?」
「俺から見たら小さいよ。小さいからいつも紛れちゃうんだよねぇ」
 棚と床の隙間に目をこらしながら、今度はフェレクが尋ねる。デュラシアはテーブルクロスの下を覗きながら口を開いた。いくら見目が良くたって、百八十センチと百九十センチの男二人が地べたに這い蹲っている姿はとても客に見せられない光景だ。
「そっか、小さいんだ……じゃあ探すの大変だね」
「いつも目立つ色してるから、普段はすぐ見つかるんだけどね……恥ずかしがってるのか逃げちゃって逃げちゃって」
 フェレクの頭上にハテナマークが飛ぶ。
 恥ずかしがって、逃げる?
「デュラシアさん」「デュラシア」
 フェレクとデュークの声が重なる。
「それって、」
「生き物であるか?」
「え?」
 三人が顔を見合わせる。やっと誤解に気付いて説明をするデュラシアの台詞に、デュークは顔が歪んで行くのを止められない。大真面目にイオへの愛を語るデュラシアの姿は、進んで記憶しておきたくない程に気持ちが悪かった。
「デュラシアさん、そんなにイオのことが……!」
 ――何故だか、フェレクだけは輝いた目でデュラシアを見つめていたわけだが。
 彼はデュラシアをリスペクトし過ぎである。


 フェレクとデューク両名が、知らずイオの助けをしていたことに気付くのは、全てが終わってからの話だ。


意味な時間も必要です)






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