愉しみたいって……十分愉しんだじゃないか。何を云いたいのかが解らず頭上にハテナマークを飛ばしていれば、気付かぬうちにベルトに指を掛けられていた。金属音を殆ど立てず器用に外して、クラウディオはベルトを一気に引き抜く。その間約二秒。
 あまりの早技にキサの脳が停止した。ずるりとズボンを脱がされそうになって、ようやく今の自分の状況を把握する。
「馬鹿! 止めろディオ何してんだ!」
「キサだけ良くなってずるいやろ」
「ずるいって何が!」
 ぐ、と力を入れられ一気に引き抜かれる。ズボンごと下着も一緒に引き抜かれてしまい、幼いながらも形を成したキサのモノがぴょこんと顔を出した。キサの顔がより赤くなる。
 男同士だ、同じものが付いていると解っていても浴場で見られるのと天を向いたそれを見られるのとではレベルが違う。そもそもキサはずっと城で姉と過ごしてきている。他人と肌を触れ合わせる事が無い環境で育ってきたのだから、他人に見られる事だって初めてだった。
 クラウディオはキサの手首の拘束を解き、かと思えば片腕を掴んで勢いよく引っ張った。乱暴に引かれた腕に肩が外れそうになり、かろうじて肩に羽織っていただけの上着がずるりと落ちる。袖が通っただけの上着は肘で引っかかり、とてもキサの身体を隠してはくれなかった。
 どさりとソファに座らされ、軽く脳が揺さぶられる。両足が十数分振りにようやく床に付いた。
 くらくらする頭を押さえ、突然の事にぼんやりしたキサの回復を待つ事もなく、クラウディオはキサの目の前に跪く。ぐいと徐に両足を上げてソファの上に足裏を付かせ、ふくらはぎをがっちりと己の両の手で固定した。
「んなッ――」
 クラウディオの目の前には、幼いキサのモノ。じっくりと観察して、クラウディオは歪んだ笑みを浮かべる。
「まだ触ってないのになんか出てきとるんやけど――これはどういう事や?」
 見れば、とろりとキサの先端から蜜が出ていた。まだ垂れてきてはいないけれど、窪みに上手く溜まっている。少し傾ければ今にも零れそうなそれに、う、とキサは言葉に詰まる。どういう事だと云われても、どう答えていいものか解らない。
 問うた彼自身も特に答えはいらなかったのだろう。クラウディオはあえてソレに触れず、太股に舌を這わせた。未発達の少年が故にまだ固い肉付きの内股は吸いつくような肌をしていて、手触りも滑らかだ。質の良い布地のようだと、“帽子屋”の名を冠する青年は想う。
 胸元と同じように、内股にも紅の花を咲かせればその度にキサは声を殺してピクンと震えた。
 声を出してたまるか。全部コイツの思い通りになってたまるか。意地だけで必死に声を噛み殺す。襲い来るなんともいえぬ快楽を拒むように、眼はぎゅっと瞑ったままだ。
「キサ。眼、開け」
 膝で立ち、キサの顎を掴んだ。それでもむずがる子供の様に眼を開けないものだから、悪戯をする気分で瞼にキスすれば、キサは驚いて眼を開ける。この聞き分けのない少年がどうすれば云う事を聞くかなんて、クラウディオには慣れたものだった。
 うっすらと無意識の情欲に濡れた月色の瞳は、上等の琥珀。けれど奥にはまだ反抗的な光が覗いていて。
 良い目だと思った。そういう奴ほど屈服させたくなる。
「ちゃんと見とれや。俺を屈服させとる気分やろ?」
 クラウディオはまた跪き、太股を人差し指で撫で上げて――、一気にキサのモノを温かい口内に含んで吸い上げた。
「ひああ……っ!」
 初めての慣れない感覚に甲高い声が響く。ぎゅっと口を噤んでも、漏れた声は取り消せない。
 本能的な恐怖と快楽が混ざり合って、ショートしてしまいそうになる。恐ろしい程に気持ちが良くて、溶けてしまいそうになる思考を必死で留める。此処で流されたらおしまいだ。
「止、めろ……っ、そんなとこ…汚、ぃだろ……ッ」
 じゅる、と唾液を口いっぱいに溜めて、口内でゆるゆると扱くクラウディオを気丈にも睨みつけた。両手の置き場に困って、クラウディオの頭を掴んで押しやり自分から離そうとする。それでも力の抜けた両腕は抵抗にすらなっていなくて。
「汚いって――毎日風呂入っとるやろ」
「…ン、そういうもんだっ……ひぁッ、じゃあ無――ッ…」
「……何云っとるかがよう解らん」
 喋ろうとする度に情けない声が上がって、瞳から快楽による涙が一筋零れた。
 クラウディオが自分のモノを咥えてる姿に背筋が震える。外側にキスをして舐め上げる度に、口に含んで扱く度に、頭に光がチカチカと浮かぶ。自分一人で耐えるのが辛くて、しがみついていたくて、黒く柔らかい髪を引き寄せたくなってしまう。溺れてしまいそうになる。
「――だ、め…だっ……」
「ほうひょうにゃひゃつ」
「くち――ッ入れ、喋……っ!」
 強情な奴。そう云っただろうクラウディオの歯が少し当たって、それすら快感に変えられる。喋ろうとすれば声が漏れてしまうから、キサはクラウディオの髪に顔を埋め、奥歯を強く噛んで流そうとする。夜の色した髪が引っ張られて、クラウディオが眉を顰めた。
 一物から口を離し、キサの両腕を掴んで、クラウディオは自身の首に絡めさせる。どうせ彼の力では、首の骨をへし折れまい。
 キサの息は絶え絶えで、それでもプライドだけは何処までも高かったが、襲い来る初の感覚に全身の力が抜けている。なんとか抵抗しようと腕を振り上げようとするものの、それは少し上がってすぐに落ちるだけに終わってしまった。今自分がどれだけ男を惑わす格好をしているかなんて、きっと気が付いてもいないのだろう。
 上着はずりおち殆ど意味を為さず、下半身は素っ裸だ。それに比べてクラウディオには一糸の乱れすらない。全部が終わって気付いた兎は、白兎から桃兎にでもなるだろうか。
 涙の跡が残る頬を親指で拭う。クラウディオの雄がまた顔を出した。そろそろ自分も限界に近い。
「おい、キサ」
「……ん、あ?」
「舐め」
「んぐっ!?」
 落ち着く暇さえ与えられず、いきなり口の中に指を突っ込まれた。喉の奥まで届いてしまいそうな長い指に噎せかけるが、クラウディオはそれを許さない。
「噛むんやないぞ。さっき俺がやったようにやるんや」
 良いチャンスだ、噛みちぎってやろうか。丁度物騒な思考に身を任せようとしたところでストップが掛かる。
 そんなの聞いてやるものかと犬歯を指に掛けた時だ。
「んぎっ、ふ…!?」
 限界まで張り詰めた己の根元を、クラウディオがもう片方の手でギッチリと握りしめた。あまりの苦しさに腰が逃げかけるが、ソファの背もたれに阻まれ身動きが取れない。
 キサの考えを読み取ったかのように、モノクルを光らせて歪んだ笑みを浮かべる。
「猫と違って、兎に躾はいらんと思っとったんやけどな」
 そうおどけて淡々と話す彼の目は全く笑っていない。
 ――噛んだらコレを握り潰す。暗にそう云われた気がした。





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