萎れかけていたモノが、まるでスイッチを切り替えられたかのように上を向く。ツヤツヤと濡れる原因は、果たして青年の唾液だけだろうか。
「やっ、なにこっ……れえ――んぁ…っ……!」
「――前立腺、って知っとるか?」
 クラウディオが口の端を上げる。問われてもキサは前立腺など聞いたこともなかったし、その声に構っていられなかった。刺激が強すぎて、とてもじゃないが耐え切れない。先程まで痛くて不快でたまらなかった指が、別のものになってしまったようだった。
 クラウディオの指が、キサの秘所を掻き回す。くちゅくちゅと濡れた音がして、聞きたくないのにこの耳はどんな音も拾ってしまう。口を両手で塞ぎ目を瞑って耐えれば、カリ、と前立腺を爪の先で擦られて甲高い声が漏れた。
「手で抑えるな」
 勿体ない。もっと聴かせろ。
 どうとでも取れる言葉を発しながら、頭の下に引いた儘の腕を引き抜いてキサの両手を頭上に纏めた。ソファの下に落としたベルトを手探りで探しだし、片手で緩く縛り上げる。これでもう、クラウディオの両手は自由。
「んっや、……! ばっ――!」
 右手は蕾を掻きまわし、左手と舌は胸の飾りへ。キサの頭が溶けていき、達してしまいそうになった時だ。
 クラウディオの手が、またも止まった。
 涙を溜めた瞳でクラウディオを見る。が、濡れてピントの合わない視界は、彼が今何をしているかが解らない。ファスナーを降ろす音が聞こえるような気もする。
「キサ」
 髪を撫でる大きな掌と、瞼に優しいキスがひとつ。

「――御前のハジメテ、俺が貰うわ」

 心構えも何もなく、突如下半身に強い衝撃。
 メリメリと押し入ってくる熱く固いクラウディオのモノに、突かれ、擦られ、嬲られて――

 そこから何がどうなったのか、キサは何一つ覚えていない。
 薄れていく意識の中で思い出せるのは痺れる痛みと抗いようの無い快楽、腹に感じた熱い飛沫。
 それから額に落とされた、甘いキスひとつだけだった。



 ソファがキサとクラウディオの放った熱い精で汚れた事に、掃除が面倒だと率直に思う。
 気を失ってしまったキサが起きる前に秘所から自らの精を掻きだした。本当はキサの意識のある時に、羞恥に染まる顔を見ながらやりたかったのだが……下痢になられて文句を云われても困る。
 服を着せる前にシャワーが先かと思うが、かと云って起きる気配も無いので、とりあえず横抱きにしてベッドに運ぶ。忘れ去られていたクリーム色の帽子も一緒に寝室へ持って行った。
 ベッドに降ろし、涙と涎でべとべとになった頬を親指で擦る。
 ――キサは、駄目だとは何度も叫んでいたが、嫌だとは一言も云っていなかった。
 最後の方など散々泣かされ喘がされたのに、嫌だとは云わなかった。
「暇潰しのつもりやったんやけどなあ」
 乱れてしまったビロードの髪を撫で整える。
「……キサが狂わせたんや。責任とってもらわな」

 帽子屋の呟きは、眠る兎に届かなかった。

(帽子屋の感情=兎の困惑)

...by Kureha Kousaka





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