今日はハロウィーンだ。
 思い思いの仮想をしたり、実際に菓子を貰いに回ったり。日本で行うことのは稀なイベントだけど、大衆への認知度は高いと思う。クリスマス程ではないにしろ街を歩けばショーウィンドウはオレンジ塗れ。南瓜をくり抜いて作るランタンを、誰しも一度は見たことがあるだろう。
 そう、今日はハロウィーンだ。
 ――だからって、さあ。なあ。

「翔ちゃん、かわいいー…っ」
「……嬉しくねぇ」

 幼馴染が持ってきた黒い猫耳に南瓜のランタン。“格好良い”、“男気”という言葉からかけ離れまくったその装備を俺は何故付けているのか。仕事でもないのに。
『最近お仕事でずっと会えなかったですし、ハロウィン翔ちゃんを見たいんですー! 翔ちゃん成分が足りないんですー!』とでかい幼馴染に涙目で詰め寄られて、首を縦に振るしかなくなったわけだが、結局は俺が甘いんだろうとは思う。
 不機嫌な俺に、那月が首を傾げて聞いてくる。
「しょーちゃん、すっごく可愛いですよー。なにが嫌なんですかー?」
「可愛いは目指してないんだよ……! もういいだろこれ、外すぞ」
「えー。駄目ですよう、まだ写真撮ってないですー」
「撮ろうとするな馬鹿!」
 不満そうな顔を無視して猫耳を外し、適当にぽいっと――したところで、「……えへへ」顔を綻ばせた那月に笑われた。花が周囲に飛んでるような、もんの凄く嬉しそうな顔に肩を竦める。
「……満足したか?」
「はいっ。あ、でもですね」
 照れたように笑って、那月。
「さっきの猫耳翔ちゃんすっごく可愛かったんですけど、」


 翔ちゃんはそのままが一番可愛くて、一番好きですっ。


 ――そう続けてきた言葉に一瞬思考が停止してしまったのは、不覚としか云いようがない。


(御前が笑うなら、それで)