キスしてよ、なんて。

 貴方の唇をなぞりながら強請ってみれば、喉の奥で小さく笑われてしまった。
 嘲笑、と云った方が合っているかもしれない。初めて聞いた貴方の笑い声は予想通りに冷たかった。したければ勝手に、とだけ呟いて目を閉じた貴方に微かな苛立ちを覚える。
 私からじゃいつもとまるで変わらないじゃない。貴方から私にキスしてほしいの。血色の悪い唇で、私の口内を蹂躙してほしいの。“してほしい”って、その意味を全然解っていないでしょう。解った上で遊んでいるのかもしれない。サービス外だ、なんて、思ってるのかしらね。
 優しくなんてしなくていいから。
 追って云えば息を吐かれた。気怠そうに手招く貴方の胸に飛び込んで、目を閉じる。


 ――例えそうして貰ったって、私の希望が叶うわけではないのだけれど。
 それでも少しくらい、夢を見せてよ。


(嘘でも良いから)