「あのね、」
 見せたかったんだ。そう呟いて振り返る。ボクとお揃いの兎みたいな真っ赤な目が、今はもっともっと真っ赤になってた。それがちょっぴり痛々しくて、ボクまでかなしくなってくる。
「……イオちゃ、ん?」
「ホントはね、お弁当とか用意してから連れてきたかったんだけど」
 戸惑いをあえて無視して。
 苦笑いをひとつ零し、ボクは彼女の眦を拭った。

 一寸前に見つけたの。キミの髪色とおんなじ、桃色掛かった白い花、――歩いてたらいつの間にか花畑で、境界線、解らなかったでしょ。不思議だよね。
 お花もだけど。果てがあるのかなってくらいに広がってたものだから、だから思い出したの。
 キミが笑ったら、キミを取り巻く世界はいつも、こんな風に凪いでいくから。
 見せなきゃって。
 今じゃなきゃ駄目って、思った。勘だけど。

「キミに見てほしかったの」

 ――何かが、あったんだよね。
 聞いて少しでも楽になるなら聞くし力にもなりたいけど、……キミ、云わないんだもん。
 哀しい事はそこらじゅうに転がってて、どれだけ頑張っても上手くいかないこともあって。
 ボクからは……聞けないけど。
 でもね。だから。
 この場所みたいに、凪いだ気持ちに少しでもなってくれたらって。少しでも落ち着いてくれたらって。

 沢山沢山吐き出したらさ。無理してなんて絶対云わないから。
 ね、笑お?
 キミが笑うと、世界は凪ぐんだ。
 此処みたいに。


 好きだよ、ミュリム。
 だからお願い。
 キミが苦しいときに。ひとりだなんて、思わないで。


(世界凪ぐ花)






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